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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)2168号 判決

原告

高木シズ

ほか二名

被告

大阪京阪タクシー株式会社

主文

一、被告は、原告高木シズに対し金二、一一七、〇五三円、原告高木豊に対し金三、八六七、一一八円、原告吹田ヤクルト販売株式会社に対し金一一四、五二三円、および右各金員に対する昭和三八年五月八日から各支払ずみ迄年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は三分しその二を原告らの、その余を被告の各負担とする。

四、この判決第一項は仮りに執行することができる。

五、但し、被告において、原告高木シズに対し金一、六〇〇、〇〇〇円、原告高木豊に対し金三、〇〇〇、〇〇〇円、原告吹田ヤクルト販売株式会社に対し金八〇、〇〇〇円の担保を供するときは右各仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一申立

被告は、原告高木シズに対し金五、〇〇〇、〇〇〇円、原告高木豊に対し金一〇、〇〇〇、〇〇〇円、原告吹田ヤクルト販売株式会社に対し金三一六、二七〇円、および右各金員に対する昭和三八年五月八日から各支払ずみ迄年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

第二争いのない事実

一、本件交通事故発生

とき 昭和三八年五月七日午後一時頃

ところ 寝屋川市大字池田川五五八番地の一交差点

事故車(イ) 普通乗用自動車(大五を六〇二二号)

右運転者 宮田皎

事故車(ロ) 軽四輪自動車

右運転者 忠政守

死亡者 高木春雄((ロ)車に同乗)

態様 前記交差点において北進してきて右折しようとした(ロ)車と南進してきた(イ)車が衝突し、よつて(ロ)車に同乗していた高木春雄は死亡した。

二、宮田の雇傭関係

被告は宮田を運転手として雇傭していた。

三、(ロ)車の所有関係

有限会社ヤクルト吹田営業所は昭和三八年一月三一日伊藤忠モータース株式会社からその所有にかかる(ロ)車を三六一、二七〇円で買受けた。

四、損益相殺

原告シズ、同豊は自賠法に基づく保険金各二五〇、〇〇〇円宛の支払を受け、これを後記第三の二、(三)の損害に各充当した。

第三争点

(原告ら)

一、被告の責任原因

被告は、原告シズ、同豊に対しては左記(一)および(二)の、原告吹田ヤクルト販売株式会社(以下原告吹田ヤクルト販売という)に対しては左記(二)の理由により原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

(一) 法条 自賠法三条

該当事実 第二の一、の事実および左記事実

被告は乗用自動車による旅客運送業を営んでいるところ、(イ)車を所有しその営業のため運行の用に供していた。

(二) 法条 民法七一五条一項

該当事実 第二の一、二の事実および左記事実

(1) 宮田は本件事故当時被告の業務執行中であつた。

(2) 宮田には左の如き(ロ)車運行上の過失があつた。

本件道路は南北に通じ中心線があり、二つの車両通行帯があつて指定最高速度は時速五〇粁である。

忠政は(ロ)車を時速約三五粁で運転し北行車道第二区分帯上を北進して来て本件交差点で右折するため、交差点の三十数米手前で時速一五粁に減速し右折の合図をし第一区分帯に移つて進行し、交差点南側横断歩道手前で一旦停止し前方左右の安全を確認した。そして忠政は南行車道の最接近車であつた同車道第一区分帯上を南進して来ていた大型貨物自動車(以下本件貨物車という)との安全を確認し南北路の信号機が青色を表示していたので時速五粁で右折を開始して進行したのに、宮田は(イ)車を時速六〇粁で運転し南行車道第一区分帯上を南進して来たが、本件交差点内で先行する本件貨物車を追越そうとし交差点直前において前方を注意せず加速して急に南行車道第二区分帯に移行したため交差点内南行車道第二区分帯延長上で既に右折していた(ロ)車と衝突したものである。

二、亡春雄および原告シズ、同豊の損害

(一) 逸失利益

亡春雄は本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失なつた。

右算定の根拠は次のとおり。

(1) 職業

(イ) 有限会社ヤクルト吹田営業所代表取締役

なお、右有限会社は昭和四一年九月一日吹田ヤクルト販売有限会社と商号を変更し、更らに同会社は同年一一月二五日組織変更により吹田ヤクルト販売株式会社となり現在に至つている。

(ロ) 浪華ヤクルト事業協同組合理事

(2) 収入

右(1)(イ)につき給与一ケ月一二〇、〇〇〇円、賞与一ケ月二〇、〇〇〇円

同(1)(ロ)につき給与一ケ月二〇、〇〇〇円

(3) 生活費

一ケ月二〇、〇〇〇円

(4) 純収益

右(2)と(3)の差額一ケ月一四〇、〇〇〇円

(5) 就労可能年数

当時の年令 五二才

平均余命二一・四六年(昭和三八年簡易生命表)

右平均余命の範囲内で六三才まで一三二ケ月(一一年)間就労可能

(6) 逸失利益額

亡春雄の逸失利益の事故時における現価は一四、七〇〇、五五五円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、月毎年金現価率による)

(7) 身分関係

被害者亡春雄と原告シズ、同豊との身分関係は左のとおり。

原告シズは亡春雄の妻、原告豊は亡春雄の子。

(8) 権利の承継

原告シズ、同豊は右(7)の身分関係に基き亡春雄の右(6)の逸失利益の損害賠償請求権を左のとおり承継取得した。

(イ) 原告シズ 三分の一(四、九〇〇、一八五円)

(ロ) 原告豊 三分の二(九、八〇〇、三七〇円)

(二) 治療費および葬祭費

原告シズ、同豊は左の費用を各二分の一宛支出した。

(1) 松下病院治療費 四、九七三円

(2) 葬祭費

(イ) 公益社大阪市清掃局北斉場 二一九、四〇〇円

(ロ) 読経料(お寺寸志) 三四、〇〇〇円

(ハ) 遺体運搬費 四、〇〇〇円

(ニ) 霊枢車運転手および葬儀世話人への寸志 三六、四二〇円

(ホ) 忌中会葬者接待肴料 一六八、六六一円

(ヘ) 香料 五〇〇円

(三) 精神的損害(慰謝料)

原告シズ、同豊につき各一、〇〇〇、〇〇〇円宛。

右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

原告シズ、同豊と亡春雄との身分関係は前記二、(一)(7)の如くであり、同原告らは一家の生活の支柱であつた春雄を不慮の事故により失い、生活の基盤を失うとともに甚しい精神的苦痛を受けた。

三、原告吹田ヤクルト販売の損害

第二の三、の如く(ロ)車は有限会社ヤクルト吹田営業所の所有に属していたところ本件事故により破損し使用不能となつたため、同有限会社は(ロ)車代金相当額三一六、二七〇円の損害を受けた。そして右有限会社ヤクルト吹田営業所は昭和四一年九月一日吹田ヤクルト販売有限会社と商号を変更し、更らに同年一一月二五日右吹田ヤクルト販売有限会社は組織を変更して原告たる吹田ヤクルト販売株式会社となした(以下原告吹田ヤクルト販売という)。

四、本訴請求

以上により、被告に対し、原告シズは右二、(一)の三分の一と(二)(三)との合計額から第二の四、の自賠保険金を控除(但し充当関係は第二の四、のとおり)した残額五、八八四、一六二円の内金五、〇〇〇、〇〇〇円、原告豊は右二、(一)の三分の二と(二)(三)との合計額から第二の四、の自賠保険金を控除(但し充当関係は第二の四、のとおり)した残額一〇、七八四、三四七円の内金一〇、〇〇〇、〇〇〇円、原告吹田ヤクルト販売株式会社は右三の三一六、二七〇円、および右各金員に対する昭和三八年五月八日から各支払ずみ迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告)

一、運行者ならびに使用者免責

(一) 本件事故発生につき宮田は無過失であり、本件事故は忠政の重大な過失により生じたものである。

宮田は(イ)車を時速五〇粁で運転し先行する本件貨物車に追従し南行車道第一区分帯上を南進してきたところ本件交差点の約九米手前で前方約六〇米の北行車道第一区分帯上を右折((ロ)車から向つて)の合図をしながら対向してくる(ロ)車を発見し、自車と(ロ)車の各進行速度と通行区分帯からすれば両車が接触するかも知れないと考え(ロ)車と安全に離合するため速度を毎時五粁程減速するとともに南行車道第二区分帯に移行した。しかして、宮田は、(ロ)車を発見当時より交差点南北信号は青色を表示していたので、右折車である(ロ)車は法規に従い直進車である(イ)車の進行を妨げないものと信じて進行したものであるところ、忠政は(ロ)車を運転してきて本件交差点で右折しようとしていたにも拘らず、対向車の有無に注意せず相当の速度で進行し交差点南側横断歩道手前に至つて始めて南行車道第二区分帯上に(イ)車が、同第一区分帯上に本件貨物車が各対向進行してくるのを発見し、その後も直進車である右(イ)車および本件貨物車に注意しこれら車両の進行を妨げないよう一旦停止の措置を採らず、また交差点の中心の内側を徐行せず前記速度のまま交差点南側横断歩道上から右折したため本件事故が発生したものである。そして、宮田は(ロ)車が停車せずに自車前方に右折進行するのを認めた時直ちに急停止ならびに左転把の措置を採つたものであるが、忠政は急停止の措置を採ることもなく、また殊に(ロ)車は車体構造上接触等の事故に対する安全設備に非常に不安のある脆弱な軽四輪車であるうえに狭小な座席に二名の同乗者を乗車させて運転していたのであるから特に安全運転に留意すべきであつたのにこれを怠つたものである。

(二) 車両の機能、構造上の無欠

(イ)車は完全に整備されており、本件事故の原因となるべき機能、構造上の欠陥はなかつた。

(三) 選任監督上の無過失

(1) 被告は昭和三七年宮田を運転手として選任したが、同人は本件事故当時までに八年間の自動車運転経験を有する勤務成績優秀な運転手であつた。

(2) 被告は事故防止に十分注意しその事業の監督につき注意義務を尽している。

二、損益相殺

亡春雄の逸失利益の算定に際しては、収入額から所得税および市民税合計一ケ年二五八、六一四円を控除すべきである。

三、過失相殺

(一) 本件事故発生につき原告吹田ヤクルト販売の被傭者であり本件事故当時その事業を執行中であつた(ロ)車運転者忠政にも前記の如き過失があつたから同原告の損害額算定につき忠政の過失を斟酌すべきである。

(二) (ロ)車運転者忠政は原告吹田ヤクルト販売に勤務し本件事故当時同原告会社の業務執行中であり、本件事故は前記一の如き同人の過失によつて生じたものであるところ、高木春雄は右原告会社の代表取締役として(ロ)車に同乗し右忠政に対し(ロ)車の運行保管に関し一般的な指揮監督権を有していながら、同人に対し、交差点の中心の内側を徐行するとともに前方左右を注意し直進車である(イ)車の進行を妨げないため一時停止するように指示するのを怠つたため本件事故が発生したものであるから、春雄および原告シズ、同豊の損害額算定につき春雄の右の如き過失を斟酌すべきである。

四、相殺

被告は前記一、三、の如く原告吹田ヤクルト販売の被傭者で同原告会社の事業の執行中であつた忠政の(ロ)車運転上の過失により本件事故によつて左の如く合計七五、二二四円の損害を受け、同原告会社に対しその損害賠償請求権を取得した。そこで被告は昭和四三年一月二三日の本件口頭弁論期日において右損害賠償請求権をもつて、原告吹田ヤクルト販売の本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

(一) 被告所有の(イ)車の修理費用 四九、四三〇円

(二) (イ)車を約一週間休車させなければならなくなつたため右期間中の(イ)車の運行による得べかりし利益の損害 二五、七九四円

第四証拠 〔略〕

第五争点に対する判断

一、被告の責任原因

(一)  被告は原告シズ、同豊に対し左の理由により同原告らの後記損害を賠償すべき責がある。

法条 自賠法三条

該当事実 第二の一、の事実および左記事実

被告は乗用自動車による旅客運送業を営んでいるところ、(イ)車を所有しその営業のため運行の用に供していた。〔証拠略〕

(二)  被告は原告吹田ヤクルト販売に対し左の理由により同原告の後記損害を賠償すべき責任がある。

法条 民法七一五条一項

該当事実 第二の一、二、の事実および左記事実

(1) 宮田は本件事故当時被告の業務執行中であつた。〔証拠略〕

(2) 宮田には左の如き(ロ)車運行上の過失があつた。

(イ) 本件事故の状況

〔証拠略〕を綜合すれば次の如き事実が認められる。

本件現場は南北に通じる道路とやや斜めに東西に通じる道路との交差点で信号機が設置されており、南北路の交差点各手前に横断歩道がありその間隔は約二〇米である。南北路は幅員一四米のコンクリート舗装部分とその両側に幅員各二米の未舗装部分からなり、中心線があり車道には各二の車両区分帯が設けられており、指定最高速度は毎時五〇粁である。

忠政は(ロ)車を運転し時速約三五粁で南北路北行車道を北進してきたが本件交差点手前約四〇米の地点で交差点の南北信号が青色を表示したので交差点で右折((ロ)車から向つて)するため右折の合図をしつつ第二区分帯から第一区分帯に移行し、やや減速して南北路南側横断歩道の交差点内側附近に至つた時南進車の有無を確認したところ、南行車道第一区分帯上に貨物自動車(以下本件貨物車という)が時速五〇粁位で進行してくるのを認めたが同車との距離、その速度等から同車と接触せずに安全に右折し得るものと考え前記地点から一旦停止せずに注意を東西路の方へ移して時速約一〇粁で右折したものであるが、(イ)車には全く気付かなかつた。

宮田は(イ)車を時速約五〇粁で南行車道第一区分帯を南進してきて本件交差点の手前約一〇米に差しかかつた時前方約五十数米の北行車道第一区分帯上に右折((ロ)車から向つて)の合図をしながら対向してくる(ロ)車を発見した。そして宮田は、(イ)車より低速で先行していた本件貨物車を追越すとともに(ロ)車が右折の際南行車道第一区分帯に跨つて停止した場合同車との接触を避けるため約九米進行して南行車道第二区分帯に移り、(ロ)車と約三〇米に接近していたが南北信号は(ロ)車を発見時より青色を表示していたことから(ロ)車は交差点中心附近で一時停止するものと考え時速約五〇粁のまま進行したところ約六・五米進行した南北路北側横断歩道上で時速約一〇粁で右折してくる(ロ)車との衝突の危険を感じ直ちに左転把ならびに急停止の措置を採つたが約一四米進行した南行車道第二区分帯上で(ロ)車と衝突した。そして当時(イ)車の乗客であつた谷川武子はその子が水死したことを知らされて帰宅途中であつたため宮田に対しできるだけ早く急ぐよう求めていたので、宮田は急いでいたもとの推認される。なお本件貨物車は(ロ)車の後方を中心線を跨いで南方へ直進した。

以上の認定に反する甲一一ないし一四号証、乙二号証の一〇ないし一二、一八、一九の各記載および証人宮田、同忠政、同河合の各証言部分は前掲証拠に照らし容易に措信しがたく、乙一号証の一ないし一八も未だ右認定を覆えすに足りず他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(ロ) 宮田の過失

以上認定の事実に基けば、宮田は交差点の手前で追越しのため既に第二区分帯に移行したのであるから交差点内において追越しをしたものとは認められないが、南進車の最先行車は交差点直前迄本件貨物車であつたので(ロ)車は南進車との安全については本件貨物車にのみ注意して右折をすることもあり得たものと言い得べきところ、宮田は交差点直前において本件貨物車をその左側において追越し始めたのであるから、(ロ)車が同貨物自動車との安全にのみ注意し他に南進車はないものと軽信して右折することもあり得るのを予想し、(ロ)車との衝突を避けるため同車の動静に注意するとともに減速して進行すべき注意義務があつたにも拘らず、急いでいたところから漫然と(ロ)車は(イ)車の進行に気付き交差点中心附近で一時停止するものと軽信して減速せずに時速約五〇粁のまま進行した過失があつたものと解される。

二、被告の免責の抗弁

(一)  運行者免責の抗弁

認められない(右一、(二)参照)。

(二)  使用者免責の抗弁

証人河合の証言によれば、被告は宮田を採用するにあたり同人の運転免許取得の有無を調査したことが認められるけれども、宮田の運転者としての適性および運転技術等を調査したことを認めるに足りる証拠はないので、その余の点を判断する迄もなく使用者免責の抗弁は採用し難い。

三、亡春雄および原告シズ、同豊の損害

(一)  逸失利益

亡春雄は本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失なつた。

右算定の根拠は次のとおり。

(1) 職業

(イ) 有限会社ヤクルト吹田営業所代表取締役

なお、右有限会社は昭和四一年九月一日吹田ヤクルト販売有限会社と商号を変更し、更らに同会社は同年一一月二五日組織変更により吹田ヤクルト販売株式会社となり現在に至つている。

(ロ) 浪華ヤクルト事業協同組合理事

(〔証拠略〕)

(2) 収入

右(1)(イ)につき給与一ケ月一二〇、〇〇〇円、賞与一ケ月二〇、〇〇〇円

同(1)(ロ)につき給与一ケ月二〇、〇〇〇円

(〔証拠略〕)

(3) 生活費

一ケ月 六〇、〇〇〇円

(〔証拠略〕)

(4) 純収益

右(2)と(3)の差額一ケ月一〇〇、〇〇〇円

この点につき被告は春雄の収入から同人の生活費の外に一ケ年二五八、六一四円の所得税および市民税額を控除した残額が同人の純収益であると主張するが、所得税等の税金は公的な負担であつて損益相殺の対象となる私的な生活費等の必要経費とは性質が異なつていることおよび損害賠償金を非課税と定めている所得税法九条一項二一号の立法趣旨に照らし、得べかりし利益の喪失による損害賠償額を算定するに当つてはその収入額より所得税等の税額を控除しないのが相当であると考えられるので、被告の右主張は採用し難い。

(5) 就労可能年数

当時の年令 五二才

平均余命 二一・四六年(昭和三八年簡易生命表)

右平均余命の範囲内で六三才迄一三二ケ月(一一ケ年)間就労可能。

(〔証拠略〕)

(6) 逸失利益額

亡春雄の逸失利益の事故時における現価は一〇、五〇〇、三九〇円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、月毎年金現価率による)。

(算式)(一ケ月純益) (ホフマン係数)

一〇〇、〇〇〇円×一〇五・〇〇三九=一〇、五〇〇、三九〇円

(7) 身分関係

原告シズは亡春雄の妻、原告豊は亡春雄の子である。(〔証拠略〕)

(8) 権利の承継

原告シズ、同豊は右(7)の身分関係に基き亡春雄の右(6)の逸失利益の損害賠償請求権を左のとおり承継取得した。

(イ) 原告シズ 三分の一(三、五〇〇、一三〇円)

(ロ) 原告豊 三分の二(七、〇〇〇、二六〇円)

(二)  治療費および葬祭費

原告シズ、同豊はその主張の如き費目につき各合計二三三、九七七円宛支出した。(〔証拠略〕)

(三)  精神的損害(慰謝料)

原告シズ、同豊につき各一、〇〇〇、〇〇〇円宛をもつて相当と認める。

右算定につき特記すべき事実は同原告ら主張のとおり。(〔証拠略〕)

四、原告吹田ヤクルト販売の損害

第二の三、の如く(ロ)車は有限会社ヤクルト吹田営業所の所有に属していたところ、本件事故により破損し使用不能となつたため同有限会社は三〇四、二七〇円の損害を受けた。そして右有限会社ヤクルト吹田営業所は昭和四一年九月一日吹田ヤクルト販売有限会社と商号を変更し、更らに同年一一月二五日右吹田ヤクルト販売有限会社は組織を変更して原告たる吹田ヤクルト販売株式会社となし、従つて原告吹田ヤクルト販売は吹田ヤクルト販売有限会社から右(ロ)車の損害賠償請求権を承継取得した。(〔証拠略〕)

五、過失相殺

(一)  原告吹田ヤクルト販売関係

〔証拠略〕によれば忠政は有限会社ヤクルト吹田営業所の被傭者であり本件事故当時同有限会社の業務執行中であつたことが認められるところ、前記一、(二)(2)(イ)の事実に基けば忠政は本件交差点において右折しようとしたのであるから交差点の中心の直近の内側を徐行するとともに対向車の有無を注意すべきであり、且つ(ロ)車が交差点に差しかかつた時折から南行車道を直進しようとする本件貨物車および(イ)車も交差点に差しかかつていたのであるから(ロ)車において右折すればこれら車両の進行を妨げるおそれがあつたものと言うべく、従つて(ロ)車は交差点中心の内側で一時停止すべきであつたにも拘らず、忠政は漫然と安全に右折し得るものと軽信し、対向車の有無を十分確認せずに南進してくる(イ)車に全く気付かず且つ一時停止せずに時速約一〇粁で交差点南側横断歩道附近から右折した過失があつたものと解される。

よつて、忠政の右過失の程度を勘案すれば原告吹田ヤクルト販売の損害についてその五〇パーセントを過失相殺するのが相当である。

(二)  原告シズ、同豊関係

〔証拠略〕によれば、春雄はいわゆる同族会社たる有限会社ヤクルト吹田営業所の代表取締役としてその事業を指揮監督しており右有限会社の業務執行のため(ロ)車の助手席に同乗していたことが認められるので、右事実と右(一)の事実に基けば、春雄は忠政に対し(ロ)車の運行保管に関し一般的な指揮監督権を有する者として、交差点において右折する際は交差点の中心の直近の内側を徐行するとともに対向車の有無を注意し且つ折から南行車道を直進しようとしていた本件貨物車および(イ)車の進行を妨げないよう交差点中心の内側で一時停止するよう指示すべき注意義務があるのに、運転手の忠政が一時停止せずに時速約一〇粁で交差点横断歩道附近から右折するのに気付きながら何ら一時停止等の指示をなすことなく放置していたもので、この点の過失が本件事故の一因であると認められ、右認定に反する証人河合の証言部分は容易に措しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

よつて春雄の右過失の程度を勘案すれば、春雄および原告シズ、同豊の損害についてその五〇パーセントを過失相殺するのが相当である。

六、相殺

(一)  不法行為による損害賠償債権の債務者は、被害者に対する自己の債権とこれを相殺することができないのが本来であるけれども、これは被害者の保護とともに自力救済的清算を防止するためであるから、被告主張の如く双方の債権が同一の事故(事実)から生じたものであるとすれば、相殺を禁止すべき理由がなく、むしろ相殺を認めるのが便宜と公平に基く相殺制度の目的に適うものと認められる。

(二)  そこで被告の原告吹田ヤクルト販売に対する賠償請求権の有無を判断する。

(1) 忠政は前示五、(一)の如く本件事故当時有限会社ヤクルト吹田営業所の被傭者で同有限会社の業務執行中に(ロ)車運行上の過失により本件事故を起したもので、原告吹田ヤクルト販売は右四、の如く有限会社ヤクルト吹田営業所の損害賠償義務を承継したものと認められる。

(2) 被告の損害

(イ) 被告所有の(イ)車の修理費用として四九、四三〇円を支出した。(〔証拠略〕)

(ロ) (イ)車の修理のため昭和三八年五月八日から同年五月一四日迄休車させなければならなくなつたため右期間中の(イ)車の運行による得べかりし利益二五、七九四円相当の損害を受けた。(〔証拠略〕)

(3) 過失相殺

宮田は前示一の如く被告の被傭者であり被告の事業執行中であつたところ、宮田には前示一の如き(イ)車運行上の過失があつたので、宮田の過失の程度を勘案すれば、被害の右損害につきいずれもその五〇パーセントを過失相殺すべく、被告の賠償を求め得べき損害額は三七、六一二円となる。

(三)  そこで、被告が昭和四三年一月二三日の本件口頭弁論期日においてなした相殺の意思表示は右三七、六一二円の範囲に限りその効力を生じ、これによつて原告吹田ヤクルト販売の本件賠償請求権(但し右五、(一)で過失相殺した額)は双方の債権が相殺適状にあつたと認められる本件事故日である昭和三八年五月七日にさかのぼつて対当額の限度で消滅したものと認められる。

七、結論

以上により、被告は、原告シズに対し右三、(一)の三分の一と同(二)(三)の合計額(但しいずれも右五、(二)で過失相殺した額)から第二の四、の自賠保険金を控除(但し充当関係は第二、の四、のとおり)した残額二、一一七、〇五三円(円未満切捨)、原告豊に対し右三、(一)の三分の二と同(二)(三)の合計額(但しいずれも右五、(二)で過失相殺した額)から第二の四の自賠保険金を控除(但し充当関係は第二の四のとおり)した残額三、八六七、一一八円(円未満切捨)、原告吹田ヤクルト販売に対し右四、(但し同五、(一)で過失相殺した額)から右六、の相殺額を控除した残額一一四、五二三円、および右各金員に対する本件不法行為の翌日である昭和三八年五月八日から各支払ずみ迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべく、原告らのその余の請求をいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行ならびに同免脱の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 亀井左取 谷水央 大喜田啓光)

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